刀剣男士に嫉妬
【少年探偵団の場合】 少年探偵団たちは尾行していた。本当は阿笠博士の家にサプライズ訪問するつもりだったがやめた。 世祖のお兄さんがあんな格好してるのを初めて見たのだ。普段はシンプル・イズ・ベストみたいなモノトーンの服ばかりなのにその日はスーツを着て手には真っ黒な傘を握っていた。今日、雨が降るという予報はないのは確認済みだ。 コナンも哀もいなかったので3人は極力、自分達の思う尾行というのを実施していた。 #名前2#もそれに気づいていたがあえて何も言わなかった。まあ尾行されても害はないし、と頭のゆるい考え方をしていた。米花駅に着いて待ち合わせ場所に立つ。傘はドレスコードのようなものだ。暑くも寒くもない日にスーツを着て外にいるのは気恥しかった。それに傘も。 するりと寄ってきた男は#名前2#の背後に回りこんで驚かせていた。誰だろうと確認しようと思ったが上手くいかなかった。なにせすごく大きな人だったのだ。顔がよく見えなかった。 その人は#名前2#よりも体に合わせたスーツだったが中に着る赤いシャツがやばい人に思わせた。 2人がわちゃわちゃとしていたところで駅にある時計を確認してまた歩き始めた。元太たちもそれを追いかけた。 電車に乗らなくてよかったな、と元太が言う。そうですね、と光彦たちが頷いた。あんまり遠いところに行かれたら帰るお金がなくなってしまう。小学生のお小遣いはあったとしても普段から持ち歩いているわけではないのだ。 スーツ2人組は笑ったり叫んだりしながら歩いていく。途中、本屋に寄ったのを見て元太たちも中に入った。昔、ある男達を尾行したのを思い出す。あの時はネオンの看板の形を追いかけてマフィアのお金を見つけたのだ。#名前2#さんたちに見つからないように気をつけながら本棚の周りをぐるぐると動く。周りから変な目で見られているのも気にしなかった。 #名前2#と赤シャツが本を買った。何の本を買ったのかまではわからなかったが二人とも買ったのは確かだ。 本屋から出て向かったのは公園だった。ベンチに座り、買っていた本を取り出した。それを開いてなにか喋っている。 「なんですかね、あの本」 「分厚い本だったねぇ」 「なんで公園なんだ? 別にカフェとかに入ってもいいのによ」 元太の疑問ももっともで光彦も歩美も「さあ?」と首をかしげた。光彦は今までの経験から閃いた。人混みであの本について話せない理由とは。 「も、もしかしたら、殺人計画を立ててるとか!!?」 「ひぇえあああ!!?」 驚きの声をあげた元太を2人が必死に手を当てる。今は尾行をしている時だから大声をあげてはいけない。慌てて#名前2#たちを見ると立ち上がりどこかへ行こうとしている。 ビビっている元太を連れてまた果敢にも尾行を続けようとしていた。 「どうしますか、彼ら」 「そうだなあー」 偵察値の高くない太郎太刀でさえも後ろにいる少年探偵団には気づいていた。イタズラではないが今から行くところについてこられても困る。どうしようかなぁと言っていたら太郎太刀が#名前2#の腕を取り早歩きになった。 「あ、おい!」 「流石に中までは来れませんから」 それを言われても仕方ないけれど#名前2#にとっては行く場所も問題なのだ。あーもう仕方ない! #名前2#はコナンたちと事件に絡まれることが多すぎて諦め癖がついていた。 #名前2#たちが凄いスピードで歩き始めた。赤シャツの足のコンパスは元太たちよりもずっと長くて広くて小走りでついていかなければいけなかった。 「ね、ねえ! これどこ向かってるのかなぁ!?」 「分かりません! とにかく#名前2#さんを追いかけないと!」 「お、俺、もう腹減り始めたぜ…!」 尾行しているのも忘れて普段通りの声のボリュームになった。#名前2#たちは肩をぴくりと震わせたが少年探偵団たちは気づかなかった。ゼェハァと息を吸いながら#名前2#たちが歩くのを追いかける。 と、その時。#名前2#がくるりと振り向いた。うわ、と目が合う。体を隠そうにも電柱には元太の大きなお腹は隠れてくれない。それにバッチリ目が合ってしまったのだ。 「お前ら……」 「あははは」 汗をかきながら笑って誤魔化そうとすると#名前2#はため息をついて「尾行はやめろ」と言い放った。いつもよりも強い語調に少年探偵団たちも怯えてしまった。 「……いいな?」 念押しして歩き始めた#名前2#に少年探偵団たちはどうしようかと顔を見合わせる。彼らはこんな時コナンならどうするか考えた。そして思った。彼ならまだ追いかけるだろう、と。 また着いてきた気配に#名前2#はもう何も言わなかった。太郎太刀も#名前2#が言わないのであれば、と何も言わない。先程までの空気が嘘のようにピリピリとし始めた。 #名前2#たちが向かったのはケーキ屋さんだった。中のイートインスペースに座り#名前2#たちは誰かと話している。ケーキを買うふりをして中に入ると同じ小学1年生らしき人影が見えた。 「待たせたか?」 「いいやー、大丈夫だったよ」 「#名前2#さん、このぱふぇ がたべたいです!」 「いいけど、夕飯食えるのか?」 「はい!」 「あの、僕も食べていいんですか?」 「もちろん」 「じゃあアタシのも奢りでー」 「お前は払えよ」 それを見ていたらなんだかいつもの自分たちの居場所を取られたような気がした。あそにいるのが世祖ならまだ我慢できたが、全然知らない子が大好きなお兄さんに甘やかされてるのは見てて嫌だったのだ。 探偵団はモヤモヤした気持ちを抱えてお小遣いを出し合い1番安いショートケーキを買った。それを持って帰る道はなんだか切なくて涙が出そうになった。 次の日、元気のない彼らを見て哀とコナンは首をかしげた。 「おい、どうしたんだよお前ら」 「何でもねえって」 「何でもないです」 「何でもないよ…」 「……」 そんな顔をしてそんなことを言って誰が信じるというのか。 「今日はテストもねーし、給食にはゼリーもつく日だぞ?」 「分かってるよ、そんなこと」 元太がじろりとコナンを睨んだ。いつもとは逆の立場に哀も呆れたため息をつく。 「昨日、何かあったのね」 「ギクッ」 「それには、そうね……私たちのよく知る人が関係してるんでしょう」 「ギクギクッ」 「さあ、学校に着く前に白状しなさい!」 哀の凄みに元太たち3人組は口を押さえて走り出した。すぐに息が足りなくなってその手を離したがまるで犯人から逃げる時のようなすばやさだった。 「あ、こら、待ちなさい!」 「灰原、そっとしとこーぜ。また給食の時にでも聞けばいいじゃねえか」 「……。あの子達、昨日何したか知ってる?」 「ああ?」 「昨日、#名前2#さんから電話があったのよ。少年探偵団たちの親は心配してなかったかって」 「……はぁ?」 「私も訳分からないから理由を聞いたんだけど#名前2#さんはそれ以上ははぐらかして、何も聞かずに電話を切ったわ」 「それでさっき元太たちを追い詰めたのか」 「#名前2#さんかもしれないし、#名前2#さんの友達かもしれないもの。さすがに貴方ほどの限定は出来ないわ」 給食の時間。いつもはいろんな人から給食を受け取ろうとする元太が沈んだ様子で食べている。食べるペースは変わらないが幸せそうな顔をしていなかった。 班ごとに分かれて食べているのでちょうど5人組になれるこの時間は話すのにちょうど良かった。 「ねえ、どうしたの? 朝から変よ」 「そ、そんなこと! ありませんよ」 光彦の声は段々すぼんで最後は小さく呟くだけだった。このままじゃ埒が明かないと思ったコナンは突っ込んだ質問をしてみた。 「昨日、#名前2#さんたちと何かあったのか?」 あえて「たち」とつけたのは世祖のことを考えたからだった。だがそれは元太たちには別の人を思い浮かばせた。あの小学生たちである。 ついには歩美がぽつりぽつりと話し始めた。 「昨日、#名前2#さんがスーツを着て傘を持ってたから何だろうって不思議に思ってついていったの」 「そしたらよ、駅でなんかヤバそうなやつと待ち合わせしてたんだよ」 「やばそうなやつ?」 「スーツなんですけど、中のシャツが赤くて」 なるほど、たしかにヤバそうな奴だ。#名前2#さんの交友関係はコナンも知らないことが多い。またきっと「あだ名のある友人」だろうと見当をつけて話を進めることにした。 「その人とー、何かーかなり分厚い本を買って、公園のベンチで読んでいました」 「分厚い本? 何色だった?」 「黒だったと思います。スーツと同化しそうなくらいの」 「黒ねえ」 「そんでよ、またつけてったらケーキ屋に入ってよォ」 「そこでも待ち合わせしてたみたいなの。それで、なんか別の小学校の子たちがいて」 もごもごとその先を言い表せなくなったの見て哀がついつい端的にその先を言ってしまった。 「それで、貴方達は見てて嫌になっちゃったのね」 「はい……」 3人の声が重なった。妹や弟のいない彼らにとっては初めての嫉妬だったらしい。哀も姉が親代わりということもあってその気持ちは良くわかる。初めての気持ちに彼らはまだドキドキ、もやもやしているのだ。 「お前らなぁ、」とコナンが何か言葉をかけるのを止めて哀はいつも通り少年探偵団たちを励ます言葉をかけた。 「#名前2#さん、貴方達がちゃんと家に帰ったのか心配して博士のところに電話をかけたのよ?」 「え?」 「ちゃんと家に帰ったのか。親御さんは心配してなかったのか。電話で確認してきたけど、私も博士も貴方達が何をやってたのか知らなかったから話を聞こうとしたら#名前2#さんは何も言わずに電話を切ったわ。多分、私が聞いたら怒るかもしれないって心配したのね」 「……」 「まあ、あの人のことだから多分粟口みたいな知り合いだと思うぜ」 「薬研くんのこと?」 「そうそう。ま、心配しなくてもあの人はいつも通り変わらねーって」 コナンの言葉を聞いてえへへと少年探偵団たちが笑いあう。帰り道にはコナンが危ない人の尾行なんてやめろと怒るだろうも、哀には簡単に予想がついた。