スコッチが生き残ってたら

スコッチ生存ルート スプリッツァー=#名前2# スコッチ=景光です。地の文ではコードネームばっかり出てきますので念の為。 時系列はこれの続きくらい。 \書きたいところだけ書いた。続かない。/  スプリッツァーと時たま会話するようになって1ヶ月。スプリッツァーは突然「俺、あんたのことが好きかも」と言い出した。 「……は、」 「ごめんね、こんなこと言って」  最初の告白は何も返事ができなかった。ただ切られた電話に耳を当てていた。スプリッツァーはその後何回か俺に好きだと言った。俺はその度に冗談言うなとか、笑い飛ばしたりだとか、たまにネタにするように俺もだよと返事をした。スプリッツァーは笑いながら「スコッチはずりぃなあ」と言った。 「なあスコッチ。お前にノック疑惑がかかってるぞ」  その電話は俺が自殺するには十分すぎるくらいの決定打だった。ライが追手としてやってきた。ジンだったら危なかったが何とかスマホのデータを壊すことくらいは出来るだろう。ライの手から拳銃を抜き取り胸に当てた。情報を守るためには死ななければならない。どこか遠いことのように感じていたことがぐっと腕にのしかかる。死ぬことは怖い。でも、それが義務だ。  突然スプリッツァーのことが頭に過った。妹のためにここにいると言っていた男。俺がノックと知っているだろうに黙って見ていた男。バーボンたちは最低だとか言うけれど、それがあいつの自分の守り方だった。 「スコッチはさ、いつか俺の知らないところで死ぬんだろうな」 「なんだよ急に」 「……いや? ただ、俺は組織に骨を埋める覚悟はないって話」  スプリッツァーは組織の人間のくせに組織から出たいと考えていた。俺の潜入捜査が終わったら、スプリッツァーも抜け出すことが出来たら明るい未来があるんじゃないかと馬鹿みたいに考えたりもした。でもそれももう遅い。俺はあいつに何の返事もやれないで死ぬんだ。  一瞬、いや一瞬ではなかったかもしれない。躊躇してしまった俺にライが手をかけた。トカレフはシリンダーに安全装置がかかっている。 「君のことはスプリッツァーから聞いている。俺も同じ潜入捜査ってやつだ」 「……なに、」 「分かったらその手を離せ」  その時、足音が聞こえてきた。緊急用の外付けハシゴをかけ登る音。引き金を引こうとした俺に銃弾がかすめた。指が燃えるように痛い。手を撃ち抜かれていた。 「スコッチ!!」 「バー、ボン……?」 「ライ、お前何をした!!?」 「バーボン、こいつは裏切り者だ。処刑しなければな」 「バーボン、ライ! 違う、んだ……。ここにいる奴らは全員同じ、だ。潜入してるんだとよ」  血が流れないようにぐっと腕を締め付ける。慌ててバーボンがハンカチで縛ってくれた。痛みと安堵で頭がフラフラしているが何とかまだ会話は出来そうだった。 「バーボン、お前…来てくれ、たんだ、な……。はぁ」 「喋るな、体力を残せ! ……ライ、貴方も潜入捜査であるという理由はどこに」 「スプリッツァーからメールが届くんじゃないか」  ライの言葉が言い終わらないうちにスマホにメールが届いた。ライの方にも届いたらしい。俺は見れないがバーボンが代わりに確認してくれた。 「……FBIか」 「そちらは公安というわけか」 「…わかった。スプリッツァーからの情報なら、お前のことは信用する」 「有難いな。だがスコッチがノックであることはジンたちにバレるのも時間の問題だ」  この時間のない状態で俺の手もイカれてしまっている。どうしようかと迷っていたらスプリッツァーからまたメールが届いた。 「スコッチのことを助けたいなら始末屋に連絡しろ?」 「始末屋か…」  組織が不審な死体を生み出してしまった時に連絡する場所だ。あまりいい方法とは思えなかったが頼れるのもスプリッツァーだけだった。俺は1度会ったこともあるのでそれに頼ることにした。始末屋は本当にすぐにやってきた。 「スコッチは俺達が始末したと報告すればいい。幹部が報告を重ねればジンらに勘づかれることも無い」 「……スコッチはどうなるんですか」 「組織がなくなるまではいない人間として扱われる。その間の保証はスプリッツァーが行う。まあ、恐らくは俺達の下についてもらうだろうがな」  まずは傷の手当だ、と始末屋の2人は俺を運び出した。組織ともバーボン…降谷とも連絡が取れなくなると言われたがスプリッツァーを経由するなら出来ると言われた。なんでここまでするんだ、とバーボンが聞いた。始末屋…巴と静は顔を見合わせたあと「沖野、もしくはシグマという名前に聞き覚えは?」と言った。俺とバーボンは分からなかったがライは何か知っているのか「あの男が?」と尋ねた。 「そういうことだ。分かったら大人しく渡せ」 「おい、ライ。オキノだとかシグマだとか一体何の話だ」 「……。FBIに突然現れて指揮を取り始めた男だ。日本人だということは分かっている。てっきりそちらにも指示を出しているかと思ったんだが……」  思うところは俺にもバーボンにもあった。巴と静は早く決めろとせっついてくる。バーボンは苦虫を噛み潰したような表情で俺の事を送り出した。必ず組織を潰してみせると言い切って。  医者のもとで手の手術をした。手は骨も貫通しているので治るまでには時間がかかると言われた。しっかりリハビリしろとも。顔は2人がどこから用意したのかマスクをつけることになった。最初こそ違和感があったが慣れるとそれも気にならなくなった。  2人はトモエとシズカで3文字のフリガナに漢字一文字なのでそれに準じた名前を名乗れと言われた。突然の無茶ぶりに頭を悩ませていたら2人は早く決めないとお前は今から翠と書いてミドリだと言われた。別に嫌な名前ではなかったので頷いたら変装用具と言って蛍光緑のキャップを渡された。さすがに恥ずかしくて遠慮したのだが上背のある2人には勝てなかった。無理やりくくりつけられた。  そこからの生活はあまり変わったことはしていない。電話も取れるといいながらほとんどが拒否された。あの報告書のせいでネームドが睨まれていると言われてしまえばこちらもどうしようもなかった。  仕事として死体を処理するのも専用の火葬場で燃やし、灰を無縁仏の墓に埋めるくらい。時たま2人はわざと交渉して被害者を海外に逃がすこともしていたが本当に稀なことだった。あまり組織の情報も入ってこず彼らの生活費はどこから出てくるのかそれも謎だった。  情報も遮断され、単調な仕事に明け暮れていた俺はある時スプリッツァーに話がしたいと打診した。彼らはダメだと言った。理由を問い詰めると面倒くさそうな表情をされた。 「お前と言っしょにいたライだったか? あいつがノックバレして組織を抜けたんだ」 「え……」 「頭のいい男だったがな。残念なことに作戦は失敗してしまった」  巴はさも残念そうに言っていたが静は我関せずという顔で欠伸をしている。バーボンと連絡を取らせて欲しいと言ったがそれも無駄だった。俺が死んだと報告したライ、バーボン、スプリッツァーの3人はラムに睨まれていた。そのうちの1人、ライが抜けたことであとの2人には強い圧力がかかっている。今ここで動くのは得策ではないという話だった。ただ、と静は言葉を続けた。 「俺たち2人がスプリッツァーからの依頼の電話にたまたま席を外していたらその時はどうなるかな」 「…!」  2人はトイレだ、キッチンだと部屋を出ていった。俺の目の前には携帯がある。翠として生きながらスプリッツァーと電話をしていたそれはタイミングよく着信音を鳴らした。  もしもし。俺の声に向こうは驚いたように息を呑んだ。  ス…いや、今は翠だったか。俺は返事もできなかった。久々に聞いた声に涙が溢れて止まらない。俺はもう組織から抜けた。あとはお前だけだ、とそう言ってやれれば良かったのに。スプリッツァーは苦しそうな声で「すまん、今は時間があまりない」と途切れ途切れに喋った。 「……巴たちに言ってくれ。男一人、そちらに渡す、と」  携帯のすぐ近くで銃声が聞こえた。ぐっ!とスプリッツァーの声が聞こえる。目に見えないのにその光景はリアルに浮かんだ。息も絶え絶えにスプリッツァーは携帯を握りしめているんだろうか。 「…すこっち。好きになってごめんな」  携帯はそこで途切れた。扉の向こうで巴と静が動く気配がしていた。いつもならすぐに名前を呼んで俺を連れていくのに今回はそれもなかった。俺は、俺の事をずっと守ってくれた人を無下にした。その結果がこれだ。涙が止まらない。あの人はきっと俺の元にはもう来てくれないだろう。  巴たちが久々に2人でやった仕事は男を1人処分することだった。日本人とは間違えないだろう黒人だった。戦闘を繰り広げたのかその体は傷だらけで血が流れた後があった。冷たく重くなった死体。命のない人間。同じ死人なのに俺と横たわる男はこうも違うのだ。 「早く行くぞ」 「静……」 「ここで彼を見ていても何も起きない」  死体の服に付けられていたネックレスを外した。ロケットペンダントとはまた古風だな、と巴が自嘲気味に笑う。中を開くと黒人の男と彼には似ていない少年の笑顔があった。どんな関係かは知らない。だがペンダントにして持っていたいくらいには彼のことを思っていたのだろう。 「……スプリッツァーは?」 「さてな。俺達が行った時にはもういなかった」  一週間。スプリッツァーから連絡が来なければ組織は彼を死んだものとして扱う。始末屋の2人もそう報告する義務がある。分かっているのに胸が重く苦しかった。 「スコッチ、好きだよ」  その告白だけが頭の中でリフレインする。何度も何度も聞いた告白なのに言葉としてきちんと覚えているのはそれとあの謝罪だけ。好きになってごめんな。それはこっちのセリフだ。