緋色の弾丸

 話を誤魔化すように「なあ、誘拐犯は誰かわかるのか?」と聞いてみたら「分かんないのに突撃したのか?」と世良にじっとりした目で見られる。 「……デトロイトでのあの事件との関係性でアラン会長が危ないとは思っててさ。犯人はこの人以外に殺すつもりはなかったみたいだから、あるとしたらココかなって」 「そっか……」  俺たちがすぐに来てしまったために、アラン会長は廊下に倒されていたというわけだ。 「コナン、犯人たちは分かる?」 「えっっ、あー、あー……」  コナンは世良と陸奥を見たあとあわててスマホを手に取ると「し、新一兄ちゃん?」と口にした。なるほど、新一とバレてないフリをするらしい。陸奥の方にはバレていることはさっさとつたえていないのが悪い。  世祖が持ってきていた探偵団のバッジをスピーカーにした。世祖? 世祖よね? と哀の声も聞こえてくる。 「灰原、それ持っておっちゃんの所に行ってくれ!」 「はいはい、分かりました……」  哀が動く音を聞いて、世祖はカメラのある方向に手を振ってみせた。一番この状況に動じていないのは世祖くらいである。世祖の持つバッジからは小五郎さんや、スタッフの人の声が聞こえてくる。けれども、あの人の声は聞こえなかった。 「なあ、陸奥」 「おん、わかってる」  スピーカーに拾われないように小声でしゃべっていたら、コナンたちは犯人を炙り出す仕掛けをするみたいだった。コナンが誰かに電話をかけたと思ったら、非通知で電話がかかってきた。俺のものも、世祖のものも。それに、陸奥のものだって。 「#名前2#さん、鳴った?」 「こっち三人はみんな、な。アラン会長も鳴ってた」 「今のは、リニアに乗る予定だった人の携帯に電話をかけてもらったんだ」 「でも、一人だけ鳴ってない人がいるんだよな」 「うん……。そうだよね、白鳩舞子さん」  扉があいたと思ったら、スマホを片手にいびつな笑みを浮かべる白鳩さんがいた。さっき声が聞こえてこなかったスタッフのひとりだ。こんなタイミングで、かつリニアに乗らせるなんて思いついてそれを実行するのはスタッフだよなあとは思っていた。スポンサーだって中々用意されないチケットなのに、それを込みにして計画を立てるなんて馬鹿らしすぎる。 「そのスマホ、動いてないんじゃない? クエンチを起こしたのは白鳩さん、あなただ!」 「ふっ……。バッテリーが壊れてたくらいで犯人扱いしないでくれる?」 「それなら、このリニアに乗ってたのも偶然だっていうつもりかい?」  コナンたちが犯人と口論している間にそっと世祖を後ろへ下がらせる。へたにカメラの前で能力を使われるのは困る。白鳩さんは自分の父親が冤罪だったのにFBIに捕まり、その復讐のためにずっと日本で過ごしていたのだそうだ。だが、どう考えてもこの人がひとりで事件を起こしたとは思えなかった。まさか、ひっそり筋トレを? 「アラン!!」  考えていたら、白鳩さんは拳銃を取り出してしまった。もう後には戻れない。ここで銃を撃たれたらどんなことが待っているかなんて想像がつかなかった。  世良とコナンが止めようとした時、急にリニアが減速した。おわぁっと倒れそうになる俺を陸奥が助けてくれた。ぐっと陸奥がその止めた動きのまま走り出す。リニアがまた速度をあげるが陸奥はやっぱり体制を崩すことなく壁にぶつかったままの白鳩さんの腕を蹴りあげた。 「きゃあっっ!」  よろけふためいた彼女の肩を弾丸が撃ち抜く。弾はそのまま陸奥の脚をかすめて床へ着弾した。 「む、陸奥!! お前、無茶するなって」 「それはお前とあん人の約束やき」 「いや、だからって……。白鳩さんは無事か!?」 「大丈夫、肩を撃ち抜かれただけ。神経は外してる」 「それなら……え、よかったのか?」 「なあ、今なにが起きたんだ!? 誰が撃ったんだよ!!」  世良の言葉には誰も返事をしなかった。世祖はしーっと指をたてて秘密のポーズをする。にっこり笑顔の彼女に世良はそれ以上は何も言えなくなってしまった。  言わば、これはマジックである。長谷部に用意させていた銀の弾丸を赤井さんに撃ってもらったのだ。作戦のことは赤井さんと長谷部から聞かされていたのでいざとなったらそれに合わせて動けばいいと思っていた。弾丸の速度は一定のままだったので、カメラの外なら大丈夫だろうと世祖が途中で加速させた。もちろん、こっちに被害が起きないようにリニアを貫く時には適度に減速させて。まあ、コナンの予想とは違っていたから向こうもビックリしていたみたいだが俺も陸奥の独断専行にめちゃくちゃビックリしている。話を聞いてない。  とりあえず、と持っていたハンカチで患部を圧迫しながらカーテンを引っ張り肩に結んだ。やらないよりはマシである。大きな血管は避けられたらしいが、それでもここで銃撃の何か問題があると思われるのは困る。FBIにこれ以上何か起こされては日本の警察がしめあげられてしまう。 「なあ、さっきの減速ってなんだった?」  暗に世祖に何かしたのか? と俺は聞きたかったのだが世祖はふるふると首を振った。そしてカメラの方に指を向ける。 「あっち」  犯人は向こうにいる、と言っていた。 「犯人がピンチのときに、減速するなんて普通は起きたりしないだろ? まあ、それも結局こっちの手助けみたいになっちゃったけどさ」  世良の言葉に耳が痛い。陸奥はやってやった! みたいな笑顔を浮かべていた。だが、その話を聞いていれば俺も犯人……共犯者が分かってしまった。あの女性一人で大柄な男性二人を運ぶなんておかしいと思ったのだ。 「そうだよね、井上さん」 「クエンチなんて方法を思いついて実行できるなんて、さすがリニアのエンジニアだね」  向こうは今は刀剣男士はいないはず。おそらく。三日月と宗三はふつうに帰っているはずだ。新幹線には乗ってない、と思う。彼を追いかけるのはコナンやFBIに頼むしかない。……宗三はFBIだけれど。  井上さんもまた15年前の事件の被害者だということが彼によって語られた。まあ、アランさんを殺すために共犯になるなんてよっぽどのことだとは思っていたが自分の証言が握りつぶされるなんて。 「ひでぇ話だな」  呟いた俺の言葉が分かったのか、アラン会長は「ちがうんだ」と話しかけてきた。 「違うって、何が?」 「彼の証言はわたしたちも聞いていた。犯人も捕まえたんだ。だが、あいつは情報提供すると言ったんだ」 「それで、あの人の証言は意味がなくなってしまった。活用されたけれど、それを井上さんは知らなかった」 「……ああ」  アメリカのやり方と、日本のやり方は違う。それは仕方がないことだし、なにか文句を言うことはないけれど。 「予測できることに、対処されなかったってことは反省すべきですね」 「秀一、前に人が出てくるぞ」 「なに?」  長谷部のカウントダウンに合わせてスピードを落とせば、酔っ払った女性がこつこつと出てきた。 「そこぉ、スピード違反よ! とまりなさーーい!」  ギリギリのところで止まったというのに、彼女は怒った顔のまま。だが、ふにゃりと崩れたと思ったらバンパーに身を預けるようにして眠ってしまった。 「由美タン!! 危ないじゃないか、急に車の前に飛び出すなんて!」 「秀吉?」 「あれ? 兄さん!!」  長谷部はお前の弟か、と聞くが秀吉は長谷部のことなどお構いなしに「ねえ、兄さん! これから東京戻るんでしょ? 僕らも乗せてってくれない?」と頼んでいる。 「俺は構わんが」 「俺もだ」 「あ、兄さんの同僚の人??」 「長谷部国重だ。今もFBI」 「おい、俺もFBIのままだぞ」 「はは」 「ごめん、どっちか由美タンを運ぶの手伝ってもらってもいい?」  助手席に座っていた長谷部が手伝いに行こうかと思ったが、さっきの話しかけ方といい身内の方が安全圏だと思われそうだった。お前が行け、と長谷部に視線で言われて赤井は外に出る。 「ねえ兄さん、あの人ほんとにFBI?」 「? そうだが」 「あの人、#名前2#くんの知り合いでしょ。前に一緒にいるところ見たことある」 「ふっ……。さすがの記憶力だな」 「なんてったって、日本一だからね」  ふたりを後ろに乗せて(長谷部が後ろに行ってもよかったのだが、秀吉の方が「由美タンとこの人を……?」という顔になったために長谷部は助手席のまま座っていた)車を走らせていたら、長谷部のもとに#名前2#から、赤井のもとにコナンから電話がかかってきた。 「長谷部、お前いま大丈夫?」 「ああ……」 「共犯者の井上さんが逃げ出した。宗三と三日月は今ちょっと動けない」 「わかってる。こっちも無理そうだから、ジョディとキャメルたちを動かすしかないだろ」 「って思ってたんだけど」 「けど?」 「三日月が珍しく怒ってて」 「……嫌な予感がするんだが」 「今、岩融と今剣の二人がバイク走らせて追いかけてる」 「三条に生け捕りってできるのか?」 「ちょっとFBIメンバーでやらかさないようにできないかな? キャメル捜査官まで大変なことになったら俺のメンタルが死ぬ」 「死ぬな、わかった、何とかする」  今の電話は、と赤井に話しかけられて長谷部はなんと言えばいいのか困ってしまった。 「……知り合いの社長が、今回の騒動にご立腹でな」 「ああ」 「バトルジャンキーなやつらを召喚して今追わせているところだ」 「……それ、大丈夫か?」 「大丈夫じゃない。なあ、赤井の弟」 「あ、はい」 「お前、日本一の頭脳だか何だかだよな」 「へへ、記憶力って方ですけど」 「FBIと、犯人と、うちのジャンキーたちと。それぞれを動かせるか?」  ふむ、と秀吉が扇子を開いた。名人たちが持っているのをよく見かけるアレである。長谷部は実物を見るのは初めてだった。顔には出さないが「ほんとに持ってるんだな」と感心する。 「もちろんです」