赤と黒のクラッシュ

「瑛祐の父親の本名はイーサン・本堂。紛れもないCIAのエージェント。日系アメリカ人で、CIAに所属してから3年後には日本に入国。短期間で潜入捜査任されるなんてどうやら相当な手練だったらしいな」 「#名前2#さん!?」 「#名前2#君!!」  阿笠の家の階段からひょっこりと顔を出した#名前2#の隣はいつものように世祖がいる……わけではなく。珍しく手持ち無沙汰が物理的に起きた#名前2#を見た。ジョディにとっては初めての#名前2#単体である。 「それで、CIAが水無怜奈を探してるっていうのは本当なの、#名前2#さん?」 「おっと、まだ話すことがあるんだから聞いてくれよ。イーサン・本堂は日本に来て結婚して2人の子どもをもうけた。んで、組織に潜入してたってこと。よし、報告終わり」 「あら、そしたらCIAの人を見たっていう情報が確かなら保護されたって考えるのが妥当じゃない?」 「そうじゃのう。CIAの諜報の邪魔になるわけじゃし……」 「って思うじゃん? 残念ながら、日本にいるCIAは病院になんか行ってないらしいぜ」 「……はああ!?」 「叫ぶなよコナン。俺は本堂について調べたついでに世祖がCIAについて調べただけだから。俺もそこら辺はよく知らねーんだよ。そいつらが何してたかはジョディさんに聞けよ」  話を振られたジョディはため息をついた。肩をすくめ、イーサン・本堂が組織に潜入中に死亡したことを話し出した。ホームレスの目撃者がいたこと、ジンとウォッカらしい男がその現場にいたこと、イーサンを射殺した女が水無怜奈に似ていたこと、ジンとウォッカは現場を燃やしたことなど。それらを淡々と話す語口は捜査官らしいものだった。感情的にならないことは捜査官にとって大事なスキルだ。大事なスキル名だけであって皆が使えるとは言わないけど。 「ちゃんとホームレスに君からもらったイーサン・本堂の写真で確認したと言っていたから確かな話だと彼は言ってたわ」 「彼って…?」 「赤井君よ。もっとも、そのホームレスを探し当てたのは#名前2#君と世祖ちゃんだったらしいけど」 「あら、#名前2#さんがネタ元なの?」 「俺と赤井さんで手分けして探したって感じかな。まあ、俺の方は世祖が勝手にとってきたって感じだけど」 「世祖になんて事させてるのよ、貴方…」 「いや、世祖が勝手にー」  意地悪く聞かれたの俺なのにー、と顔に書きながら哀に弁解しようとしたところで#名前2#のスマホに電話がかかってきた。赤井秀一と名前が出ている。ジョディに見せると出てみて、と促された。 「もしもし」 「……」 「あれ?」 「#名前1#くんか?」 「赤井さん、どうしたんすか?」  #名前2#が聞き返すと、赤井の声の後ろで何年と聞き続けた少女の声が#名前2#の耳に飛び込んだ。それはキャアアと何かが空を切る音と共に世祖が叫ぶ声だった。あちゃー、と#名前2#は頭を抱えそうになる。 「こいつぁひでぇ……」 「どうしたの、#名前2#さん」 「世祖が赤井さんとこ行ってる……。どうやって行ってんだ、ったく…」 「とりあえずこれから迎えに来て欲しいんだが」 「すんません、赤井さん」 「じゃあボスの車に乗っていけば? 今からコナン君と一緒に行くとこだし」 「そうします」  連れていってもらうから、と#名前2#は律儀に運転席に座り助手席にはブラックが後部座席にジュディとコナンが座った。車の中で彼らは本堂瑛祐について再び考え始めた。いなくなった彼のセリフは「父親の会社の手がかりを見つけた」とだけ。彼はCIAの人間を発見したとは言っていない。 「ってことは、つまり……」 「十中八九保護はされてないだろうな」 「っちゃー……」 「それにしてもCIAの手がかりって何なんだろうな?」  #名前2#の言葉にコナンは手を顎に当てて深く考えてみた。#名前2#はまだしゃべろうとしたがブラックに「運転に集中していただきたいのだが」と言われてしまいぴたっと口を止めた。コナンはといえば数分考えても分からなかったので情報の確認のために蘭に電話をかける。 「えっ、うん…。プッシュ音が? 七つの子…!?」 「ええっ!?」  コナンもジョディもブラックでさえもまさか黒の組織につながるとは思わなかった。組織の一員が病院にいること。イーサン・本堂がボスにメールを送るまでに食いこんでいたこと。そして本堂瑛祐が黒の組織に連れ去られたかもしれない、という色んな事実が頭の中を一斉に走り抜けた。 「もしもし、赤井君?」  ジョディが赤井のことをシュウと呼ばずに赤井君と呼ぶのがなんと言うかこそばゆい#名前2#はむずむずと体を揺らす。隣で見たブラックからは密かに笑われたがこればかりは仕方ない。 「ええ、そう。病院に組織がもう紛れ込んでるわ。七つの子のアドレスを打つ男を見かけたらしいのよ」  電話越しの赤井の声と共に世祖の声が聞こえてくる。今は何も振り回してないようだが、彼女は何をしでかすかわからない。#名前2#はアクセルを強く踏み込みさっさと病院に着け!と念じた。  病院では瑛祐が水無怜奈について聞いたという看護師のもとに行くからと言われて#名前2#もついて行った。赤井がそこに世祖を連れてくると言ったのだ。ついでに話も聞き出すの手伝ってくれ、と言われて#名前2#は仕方ねえなあと満更でもなさそうに返事をする。内心では楽しそうだなあと思っていたのだ。CIAや沖野にしごかれるFBIを知りたかったという理由もあるが、世祖も水無怜奈について興味があるらしいのでかまけてやろうという思いがあった。 「この男の子なら覚えてるわ。でも、こんな有名人がいたら誰でも気づくでしょ? だから居ないわよって言ったらすごくしょんぼりしてたわね……」 「へー」 「ところで、貴方達って…」 「そいつ、俺のダチなんすけどねー。水無アナが休んでる理由が病院で入院してるのかもって勘ぐって色んなとこ歩いてるんすよ」 「そうそう! 冬休みに入ってから色んな所行ってるみたいで連絡とれなくなっちゃって…。心配になって学校の先生たちと来たんだ!」  コナンと#名前2#が振り返るとジョディたちが愛想よく…ひとりを除いて挨拶した。赤井さんに素面での愛想など求めても無駄だ。と、世祖が#名前2#の服の裾を掴んできた。軽々と抱き上げると看護師はにこやかに「仲がいいのねえ」と世祖に笑いかけた。世祖も看護師の方を向くと普段よりも気の抜けた雰囲気でにへりと笑って手を振った。そして#名前2#の耳元に何かを伝える。あまりにも瞬間的なことでそれに気づいたのは赤井だけであった。 「そんで、看護師さん」 「はぁい?」 「変なこと聞くんだけど、新品のサンダルはいた男に水無アナについて聞かれなかった?」  ええっ!?と小さく声が聞こえた。この部屋にいる#名前2#と世祖以外が驚いて#名前2#を見ている。#名前2#は世祖をっしょおと抱き直して「あー、なかったかな?」ともう1度聞く。 「え、ええ。あったわ。水無怜奈によく似た人を見たが入院してるのかーって。でも、何で……」 「んー、説明するのは難しいなあ。……俺の妹、自閉症でさ。ちょっとアレなんだよね」  自閉症という言葉に看護師はああ、やっぱりという顔をして「なら仕方ないわね。きっと見ることに関して普通の人より特化されてるんだわ」と#名前2#を納得させるような安心させようとするようなそんな声で返してきた。 「うす、多分そうなんだと思います」 「何かあったらちゃんと病院に来るのよ。お兄さんも妹さんも」 「はい、頼りにしてます」  #名前2#は先生方もボウズも帰ろうぜと声をかけて部屋を出ていく。看護師の興味は世祖に向けられたのかにこやかに出ていく6人を見送ってくれた。  そして病院のとある空き部屋で#名前2#はコナンとジョディとにうたぐりぶかい視線を向けられていた。さっきの発言は何なのか、という視線だ。赤井とブラックは座ってはいないがさっさと話せと雰囲気が言っている。 「いや、俺も何がなんだか……。世祖が今日1日病院で見た人間で怪しいヤツをまとめたってだけなんだよね……」 「怪しいヤツ?」 「世祖が言うには、この前見舞いに来たら水無の名前をケータイに打ってる男が居たから気になって今日調べに来たって……。あー、絶対長谷が戦犯じゃねーか。あいつ今度こそ耳を引きちぎる」 「#名前2#さん話逸れてるって…。なら世祖はその男の顔は確認してないってこと?」 「みたいだな。ガラケーだと打つ時に音変わるだろ? それでミズナシレナって音とキールって音を確認してそのまま音の出どころを確認したらしい。んで、いたのは男子トイレ。迷子のふりして泣きながら座ってたけど無視されたらしい。そこで確認したのがそのサンダルってわけだ」 「へー……」  期待させるような確証ではなかったのかジョディとコナンは乾いた笑い声をあげて組織の一員がいつ入ってきたのかを調べることにした。 瑛祐が七つの子を聞いたのは冬休みに入る前なので21日。世祖が見舞いに来たときに見た新品のサンダルは本当に新入荷されたもので18日からの発売。  18から21の4日で入院した男が組織のスパイということになった。 「それじゃあ俺達はこれでー」 「いや、待ってくれ」 「あ、ちょっと待って」  ここで終わらせてくれないのがコナンと赤井というコンビ。#名前2#は巻き込まれる予定が見えてため息をつきそうになった。  これは俺が世祖とコナンたちとで板挟みになるパターンだ、と勘づいたのだ。事実、世祖は#名前2#に抱き上げられたままムムっと眉間にシワを寄せて縦ジワを将来作りそうな勢いで赤井を睨んでいる。さすがに友人のコナンは睨めなかったらしい。 「君たちはどうして何も聞かないで俺達に協力したんだ? せっかく組織から抜け出したんだろう」 「………。どうして、って。言われてもなあ……」  #名前2#は世祖を抱えた腕で器用に耳をかくとコナンとジュディのことを見た。ブラックや赤井よりも彼らと一緒にいることが多かったゆえに思い入れというかいろいろ肩を入れている。 「コナンたちが困ってたから」  赤井の目を見てまっすぐと。#名前2#はそれこそ今までにないくらいに真面目な声でそう言った。言われたコナンもビックリして何か言おうか戸惑っている。 「だから、今コナンが手伝って欲しいっていえば俺はやっぱり手伝いますよ」  自然とコナンに視線が集まった。誰よりも熱い視線を向けたのは他でもない世祖であった。コナンには彼女が「#名前2#を巻き込むな」と言っているのがわかる。コナンにとって蘭が巻き込めない相手のように、世祖にとってのそれは#名前2#だった。だけど。それなら組織にいる頃から守らなければ意味が無い。#名前2#もその危険性は知っているはずだ。その覚悟に賭けよう。 「手伝って、ほしい」  #名前2#はふっと笑って「わかった。とりあえず飯食わせてくれよ。そしたらこっち来るからさ」と背中をむけた。向かい合わせに抱き抱えられた世祖は肩越しにコナンを見ると涙目のままに「許さない」と言ってきた。ぐっと胸が詰まった。自分がもしかしたら未来に言うかもしれない言葉は人をこんなにも傷つける。ごめん、ともやがかかった。そうしてコナンは罪悪感と共に部屋を出てきた。