ベイカー街の亡霊

 三条グループについては有名だった。何で有名か、と言われればパーティーでのその破天荒っぷりと答える。その破天荒の原因は大抵が#名前2#のせいである。  今回、あの先輩が大人しくしていることに園子は驚きを隠せなかった。むしろ、大人しくしていて女の子たちからキャーと黄色い声を上げられていることに疑いを持ったほどだ。 「って感じなのよ、あの人たちは」  財閥令嬢の園子の言葉には説得力があった。へぇーと感心しながら少年探偵団は三日月と#名前2#を見た。普通に会話している人、と思う。あえて言うならば距離が近い。 「でも何であいつがそんな金持ちと知り合いなんだよ」 「ああ、#名前2#さんの友達の陸奥さんがいるからよ」 「みちのく?」 「陸奥吉行さん。うーんと、確か三条さんが養子縁組したとかなんとか……。#名前2#さんはその縁で知り合ったそうよ」 「へー」  自分が知らない間にそんなことがあったなんて。そう考えていたら、さっき少年探偵団に絡んできた少年たちがサッカーを始めた。  周りの人を顧みないその行動に親や祖父は何も言わず、ボールをぶつけられた人すらも何も言わなかった。 「何だ、あいつらは……」 「危ないわよね…」  心配そうに見ていた蘭たちとは違って園子はニコニコとしたまま。なぜ笑っているのか、と聞いてみれば「うふふ」と笑って返された。 「いいから見てなさいよ」  パシン、とボールを止める音がした。いや、ボールはヘディングで垂直に上に上がっている。三条の目が輝いていたのがコナンからも見えた。  #名前2#はそのままポーン、ポーンと何回かボールで遊んだ後自分の手の中に戻す。 「お前ら、まだこんなことやってるのか」 「#名前2#さん!」  慌ててやってくる薬研と世祖に#名前2#は厳しい視線を向けた。 「薬研。お前も止めるべきだったな」 「すまん……」 「おい、薬研。この人は?」 「お前……覚えてなかったのか。三条グループのゲスト役だよ。#名前1##名前2#さん。世祖の兄ちゃん」 「世祖の?」  #名前2#だ、と声がしてサッカーボールをひょいと空中に投げる。手遊びでもするかのようにそのまま肩や腕の上で転がしたあとまた自分の手元に戻した。 「いいサッカーボールだな」 「当たり前じゃん。安っぽいやつなんか使わないよ」 「でもさっきみたいな使い方してたらサッカーボールもすぐ壊れるよな」  ひょいと示したブロンズ像を見て諸星はバカにしたような声を出した。何を言われているのか理解できないと言いたげに肩をすくめる。#名前2#はその行動に何も苦言を言わなかった。 「他人に迷惑かけて遊ばなきゃいけないほど、君たちはつまらないのか」  ふっと少年たちは黙り込んだ。#名前2#は笑顔のままで「名前を聞かせてくれよ」と言う。俺だけ知られてるなんて不公平だろ、とも。 「諸星秀樹だ」 「ヒデキ。そうか、君が秀樹くんか」 「知ってんの」 「ヤゲンから聞いてる。菊川と江守と滝沢と諸星の4人とつるんでるって」  少年たちはそれを聞いて照れたように顔を逸らした。薬研も気恥しそうに世祖の手を握っている。 「学校でも君らは有名なんだろ? 皆の憧れの存在だ」 「……周りが勝手に言ってるだけだし」 「それでも悪い気はしないだろ。かっこいいと思わせるのも大変だよな。まあ、言わせてもらうと危ない真似はもうやめろよー? 泥かぶるのは君らの親だから」  #名前2#はそう言ってサッカーボールを諸星の手に落とした。世祖は薬研の手から抜け出して#名前2#の足元にしがみついた。 「どうした世祖」 「しー」 「はいはい」  心得たように#名前2#は世祖の手を取り歩き出した。残された薬研と三日月は顔を見合わせた。  あの#名前2#のことだから怒ると思ったのだ。諭したようなセリフだけで終わらせるとは……。なにか事件が起きそうだった。 「おい薬研。お前、これからどうする?」 「あ? あー、……」  三日月の視線は行ってこいと言っている。「俺っちも一緒に行くよ」と口が動いていた。 「ぅし。なら、あっち行こーぜ」  諸星が指をさした方にはブロンズ像と水のモニュメントがあった。なぜあっちへ行くのかと思えば出入口が近いからだった。要するに世祖と#名前2#を待ち伏せしようというのだ。 「なあ薬研」 「んー?」 「世祖の兄ちゃんって何者なんだよ?」 「そうだよ、粟口君。あの人、いつもはゲストじゃなくてSPでしょう?」 「菊川、知ってんの?」 「前に少しね」  そう話す菊川の顔は少し赤らんでいた。#名前2#のあのオーラにやられたのかもしれない。ダラダラと話しながら歩いていたら#名前2#がブロンズ像の刀をはめ戻していた。 「なにやってんだよ、アンタ」  江守の声にうん?と#名前2#が振り向いた。かしょんとナイフを差し込んで絨毯に降り立つ。 「車のキーを指にはめて回してたらさ」 「飛ばしたのか?」 「そうそう。しかも運悪くナイフ落としてんの。今、ハンカチで水拭いて戻したとこ」  ケラケラ笑いながら#名前2#はハンカチをしまった。よくこれで怒られないものだ、と諸星たちの方が感心する。 「あ、」  #名前2#は声を上げて頭で会釈した。諸星たちの後ろを工藤優作が歩いていたのだ。向こうも#名前2#に手を挙げて返している。 「知り合い?」 「ほんの少しな」  #名前2#は笑いながらいぇーいとピースサインを作るがとても間抜けな顔だったので皆が笑った。  そのままげらげら笑っていたら人々が移動するためこちらへやってきた。どうやらコクーン試乗に移るらしい。波につられて一緒にがやがやと移った先には50のコクーンと多くの席がある。まるで映画館のようだった。 「コクーンの体験が始まるな」 「……どうでもいいけどね」 「でも楽しいことは嫌いじゃないだろ?」  #名前2#の言い回しは少年たちのプライドにすっと入り込んだ。まあね、とそれぞれが頷く。 「ならいいんだよ。よし、乗るのはお前らだけだからな。楽しんでこいよー」  #名前2#は声をかけて送り出した。4人と薬研は満更でもなさそうな顔をして。世祖は特に表情を浮かべることもなく乗り込んだ。  列の中には少年探偵団やコナン、蘭の姿もある。どうやってバッジをゲットしたのか知らないが事件へのフラグは既に建てられていたらしい。  アナウンサーの声がホールに響き渡る。世祖たちはどこを選ぶかななんて話しながら三日月と共に悠長に座っていた。すると突然ノイズがびりびりと入ってきた。 ーー我が名はノアズアーク。ゲームはもう止められない。体感シュミレーションゲームは僕が支配した。  ノアズアークがこのゲームを支配する理由は日本という国のリセットだと言う。嫌な予感がした。立ち上がろうとする#名前2#を三日月の腕が抑える。 「……どけ、三日月」 「待て。ノアズアークについてはもっと聞かねばならない」  命をかけたゲームを行う。この場合の命はゲーム内での命ではなく現実にいる子どもたちの脳のことだ。全員ゲームオーバーになったら終わる……。真剣にやらないと皆が現実世界に戻ることは無い。そこまで言われてはもう三日月も止められなかった。  全員がゲームオーバーになると特殊な電磁波が流れるらしい。普段の世祖ならば阻止出来るだろうが今はゲームに支配されている。何とか生き残ってもあの脳の特殊性は失われるだろうし、平常にも戻れないかもしれない。 「三日月。シンドラー社長のとこに行けるか?」 「やってみよう」  三日月だから、というのか警備員たちを丸めこんで#名前2#たちが行ったのはゲームのコントロール室だった。そこには刑事と毛利探偵、工藤優作に、阿笠博士までいた。事件関係者じゃないのだが、そう見られたらしく事件について教えてくれた。ゲーム開発のプロデューサー、樫村が殺されたらしい。#名前2#はめんどくさくなりそうだと判断して事件の話は詳しくは聞かなかった。三日月を阿笠の隣の席に座らせてその後ろに立つ。  ここに来るまでに沖野さんとは電話のやりとりをしてある。三日月には、このデータをいじる量の知識は授けられているはずだ。 「博士、一つの画面にオールドタイムロンドンを出し続けてくれるか?」 「それは構わんが……」 「あと、こちらの声を子どもたちに聞かせるようにしてほしい」  三日月は横でコクーンに貯蔵されたエネルギーを逃せないか画策している。刀剣男士から人間になって一番変化があったのはこの男だろう。カシャカシャとキーボードの音がする中で世祖と薬研はホワイトチャペル地区へと入っていた。 ・菊川清一郎(11) 狂言師の息子 ・諸星秀樹(12) 警視副総監の孫 ・江守晃(あきら)(11) 財閥系・銀行頭取の孫 ・滝沢進也(11) 与党政治家の息子 ・粟口薬研(やすあき) 薬研藤四郎。