巴形薙刀の話
【巴形薙刀】 秘宝の里で8万玉を集めるとやってくるという彼。鍛刀はスルーしてしまったので薙刀をもうひと振り手に入れられたのは本丸にとって大きな幸運だった。 「……#名前2#さん」 「と、呼べ。一応上下関係的なそれを分かってもらうためにな」 「なるほど……? 変な本丸だな、ここは。主は主ではなく世祖と呼べと」 「それは色んな刀剣によく言われるよ。世祖って名前は仮名だからなー。まあ、あいつに本名があるのかすらも今は怪しいけど。 それでえっとー、巴形薙刀はあれか薙刀の集合体なのか」 「ああ。明確な一振がいるわけじゃない」 「同田貫や村正と似たようなもんか……。名前的にてっきり巴御前のものかと」 「それももちろん入っている。この名前になったのもその方の影響だ」 といっても#名前2#は巴御前という女人をよく知っているわけではなかった。前に演練で会った女審神者が薙刀を振り回す戦闘系審神者だっただけのこと。あだ名が巴ネキだったので少し調べたぐらいの知識しかない。 「主の世話をしたいが、君の方が適任のようだ」 「世話焼きはありがたいけどなー」 問題は世話を受ける世祖の方だ。世祖の性格からしてよく知らない男の世話を受けたくないというのと、彼女の病気に理解がないと世話をし続けるのは難しい。 「俺はこれからどうしたらいい?」 「まあ、ゆっくりとレベリングかなあ。演練は必ず出てもらうことになる。あと、うちは全部の家事が当番制になるから。今、組み替えてるところ」 「わかった。今日の役目はあるか?」 「ないない。初日に仕事させるほど逼迫してないよ。とりあえず世話係をつけさせるから、後はそっちで」 世話焼きに世話係がいるらしい。誰になるのだろうかと待っていたらバタバタ歩いてくる音が聞こえた。 「やっほー! あんたが巴形薙刀かい?」 「次郎太刀……。お前、うるさいんだから走るなよ」 「えー、#名前2#さんには言われたくないねえ」 派手に飾った大太刀の登場に巴形薙刀も驚いていた。自己紹介をして、次郎太刀の後についていく。色んな刀剣男士たちに挨拶をしては次は○○へ行けと命令される。 「今日は何かあるのか?」 「ああ、違うよ。新しい刀剣男士が挨拶するのにいい回り方を世祖が考えたんだ」 「主が……」 「それ」 「ん?」 「主って呼んじゃダメだよ~? 世祖は主じゃあ反応しないからね」 にひひと笑う次郎太刀に巴形薙刀は肝に銘じると答えた。真面目な巴形薙刀だからあえて気楽な次郎太刀を合わせたのかはさておき、本丸を歩き回っていくと障子の文字が段々と気になり始めた。 「この透かし文字はどこもそうなのか?」 「いんにゃ、世祖が分かりやすく変えてるの。あと#名前2#さんの迷子予防」 「何年住んでも迷子になるのか……」 「面子多くなっちゃったからねぇ。あんたでえっとー、何振り目だろ? 70とかそんな感じ?」 「曖昧だな……。大丈夫か、それで?」 「いいのいいの! ほら、こっちだよ!」 屋敷から出て畑へ行くとたくさんの野菜が育っていた。本丸では季節関係なく野菜が採れるらしい。畑にどんな魔法がかかっているのやら巴形薙刀には分からないが、審神者に栄養のある食べ物を届けられるなら気にしないようにしている。 「ここが畑。畑当番もいるけど、大体は江雪がよくやってんの」 「江雪?」 「あそこにいるだろ」 くい、と向けられた方には淡い水色の長髪の刀剣がせっせと畝を作っていた。 「もうカンストしたからイベントの時以外は畑仕事やってんの」 「カンストすると出陣しないのか?」 「する時もあるよ? 遠征とかレベリングとか。今はあんたみたいな新刃がいなかったからねぇー。今度、戦力拡充もあるみたいだし江雪もそのうち駆り出されるよ」 刀剣が練度上限に達するとどうやら出陣しなくなるらしい。巴形薙刀はそれに苦言を呈すわけではないが、何となく面白くないと思ってしまうのだった。 「まあ……、出陣しないのは面白くないなぁ」 獅子王は骨喰たちが作った組木細工に色をつけながら巴形薙刀と会話していた。イベントが始まったのでレベリングは一時中断、今はカンストした刀達や極たちが駆り出されている。 「やはりそうか」 「でも、それに文句言うつもりはねえよ」 「なぜ? 刀は使われてこそだろう」 「でも、これは戦争だから。戦う機会が減るってのはいいことだ」 ほら、お前も色塗り手伝えと犬のそれを渡された。今年は戌年なので新しく犬をたくさん作ったのだ。今も量産されていくそれに獅子王が色を付ける。 獅子王の色彩感覚は他の刀剣と違うものがあり、ある意味アーティスティックだった。 「それともなんだ、#名前2#さんたちのやり方が気に入らないのか?」 見通したようなセリフに心臓が痛くなる。いやいや、そんなことはないと自分で見て見ぬふりをしていた気持ちだ。 「考えすぎるなよ、巴形」 そうは言っても、真面目すぎる巴形薙刀には気楽に考えるというやり方を知らなかった。 「あー、ここにいたのかい、巴形!」 「次郎太刀。お前もやってくか?」 「やだねえ、アタシがそんなの出来ると思うかい? 壊しちゃったらやだしやめておくよ。それより、巴形! ちょっと手伝って!」 「なんだ? この仕事がまだ終わらないんだが」 「いいよ、次郎太刀のとこ行って。指南係だろう?」 「そうだよ、ほら早く!」 獅子王に組木と筆を返して次郎太刀のあとをついていく。大太刀の集まる部屋に来たと思ったら石切丸と数珠丸がオセロの対決をしていた。 並々ならぬ闘気が2人から見えている。2人の真ん中にいた青江はニコニコ笑ったまま2対1と指で示していた。 「このままじゃ石切丸が負けちゃう~」 「何を賭けたんだ、君たち……」 「今夜のお酒! 飲むか飲まないか!」 次郎太刀はともかくとして石切丸まで参戦するのは珍しい。見つめていたら青江が察したらしく理由を説明してくれた。 「前に次郎太刀が石切丸の馬当番を代わってるんだ。今はそのツケを支払ってる」 「なるほどな」 次郎太刀は要領がいい。上手く石切丸を巻き込んで勝ち筋を作ったようだが、数珠丸はそれでも強かった。 「このままじゃ負けちまうからね……。指南されてる巴形を連れてきたよ!」 「僕が参加するのかい?」 「そうだよぉー。いいじゃないか、指南係の命令だ」 それを言われると弱い。仕方なく部屋に座ると次郎太刀も隣に座った。 「巴形は、カンストしたら何をしたい?」 「は?」 「どうだい?」 突然話しかけてきた言葉に巴形薙刀は頭が回らなかった。賭けの話はどこに行ったのかという変わりようだ。 「……俺は、主の世話をするのが好きだ。だが、この本丸では意味がなさそうに見える」 「まあ#名前2#さんいるしねぇ」 「カンストしたら刀剣として出陣もしないのだろう? そしたら、………俺は、何もすることがなくなるん、だろうな」 「ふふっ、なら遊ぼうじゃないか」 「遊ぶっていったって……」 「アタシらみぃんなそんなもんだよ。好きなことやってバカやって遊んでんの。戦争中とかそんなのは人間の話さ。刀剣は使役されて呼ばれたら戦うだけ」 「……やけに厳しい考え方だな」 「そうかい?」 にゃははと次郎太刀は笑って負けてしまった石切丸をどけて巴形薙刀をすえた。青江の指は2対2の同点になっている。 「これで決着だね。僕もお役目ごめんだ」 「この調子のまま行きますよ」 数珠丸は石切丸に勝ったことでフッフッフと自信ありげに笑っている。しかし、巴形薙刀とて次郎太刀に巻き込まれたり誘われたり巻き込まれたり巻き込まれたりしてこの手の勝負事の経験はあるのだ。 「ふっ、それはどうかな……?」と意味深に笑って巴形薙刀は石を手に取った。 勝負は結局数珠丸の勝ちで終わり、巴形薙刀はリベンジするようにオセロにのめりこんだ。彼が趣味を見つけることになった最初の戦いである。