数珠丸の話

 新しい極が発表されます、と政府から発表されて何とか大阪城を600階回りきった。修行道具が無いわけじゃなかったが、あるに越したことはない。出陣命令を出し続けるのもしんどかったが、誰よりもしんどいのはずっと隊にいた博多だろう。小判探しをしにいってるようなものだったのだから。  発表されたという声明の紙をめくる。信濃藤四郎の修行に関して不審なことがあったため目下調査中であるというお知らせがある。信濃は落ち込んでいたが、まあ不都合がないのもまた逆に不気味だしありがたかっておけと言ってやった。あまり効果はなかった。 「次はたぶん不動かな、順番的に」 「……」  不動は浮かない顔のまま俺のことを見上げた。前にやらかしたことをいつまでも覚えているらしい。世祖は昼寝にはいっていて俺の膝の上でぐっすりだ。なので膝上に不動を持ってくることは出来ないので隣に来るように言った。近侍にしていた小烏丸も不動の横に回ってまるでサンドイッチだ。 「行光の坊(ぼん)」  小烏丸はよく短刀たちを坊と呼ぶ。不動は頭を撫でられながら「なんだよ」と拗ねたような声を出した。甘えるのが下手くそなこいつはどうも小烏丸にもこんな態度を通してるらしい。偉大なる父親のはずなんだがな。 「時間を遡ることは出来ん。特にこの本丸ではな」 「……ああ」 「刀は忘れることも出来ん。だが、塗り替えることは出来る」 「………」 「己次第だがな。左文字の坊は極めた自分を世祖と#名前2#のために使うと宣言した。復讐に長けた己を封じ刀の本分に変えようとしている。 なあ、行光の坊は何をするのだ?」 「………」  厳しい話だなあ、と耳が痛い。小烏丸は刀の父親としてプライドがあるしそうあると俺も思うがものすっごく厳しい時がある。まじで怖い。でも不動はふさぎ込んだ顔をぐしゃぐしゃに丸めて捨てたらようだ。俺の方を見上げて「数珠丸を探しに行こう」と言い出した。 「いいのか?」 「俺が極になったら行けなくなるんだろ」  そうなんだよなぁ。と俺が頷いていたら「さっさと行こうぜ」と急かされた。小烏丸が手を振るのでまだ眠りこけている世祖を抱き上げて急いで粟田口の集まる部屋に行った。  数珠丸のところは極の数で敵が進化する。昔までは極がほとんどいなかったのでノーマルの短刀を連れていってた訳だが、今は逆にノーマルのやつらが不動と太鼓鐘とナイフスしかいない。これで不動が極になると今行っているマップも使えなくなる。不動はそれを分かっていて数珠丸の探索に行こうとしてくれているのだ。 「ありがとうな、不動」 「今生の別れみたいに言うなよ」 「すまんすまん」  不動にとってはこれが最後となる戦いだ。しっかりやらせてこなければ。カンストしてるから隊長にはしてあげられないけど…! 「ナイフス、太鼓鐘呼んできてくれるか?」 「はぁーい!」 「あと五虎退は薬研呼んできてくれ。それと今剣! 出陣するから準備して羅針盤のところにおいで!」 「了解です!」 「ばびゅーんとじゅんびですね!」  とたとたと真面目な顔して準備する刀剣男士たちを横目に刀装部屋に行った。大阪城クリア記念の銃兵と重歩兵を抱えるとふっと腕の中の重みが消える。 「世祖、起きたのか」 「んっまー」 「数珠丸探しに行くぞ」 「まー」  世祖はふにゃふにゃと体をくねらしたあとひょまこいっと俺の背中にくっついた。世祖は少しだけ重くなったようだ。 「世祖、お前成長してるんだな」 「にゃぁー」  昔よりも言語能力が発達してるのもまた成長とは思うが、やっぱり、体に実感する方がでっかくなったなあと思うのだ。  出陣してみたらあら不思議。検非違使に当たることもなく、かなり普通に進むことが出来た。まあ刀装は割と疲弊したりしててあと少しで剥がれそうなやつもいるのだが。ボスマスではクナイを銃兵で倒しにかかったので刀装さんたちに感謝の意しかない。こうやって見るとやっぱり成長してるんだな、とおもう。刀の持ち方が変わったとか目に見えるものではなくて、あいつらが自分たちで考えて戦っているのが感じられたからだ。いや、もしかしたら最初からそうだったのかもしれない。戦場を見回せるウェアラブルカメラが進化するよりも前に刀剣男士は進化を終えていてそれを少しずつ俺が見ていたのかも。 「私は、数珠丸恒次と申します。人の価値観すら……」  ふっと現れたのは数珠丸恒次だった。ずっと探していた数珠丸がそこに現れた。 「うっわ、まじか」  俺に言えたのはそれだけだった。長い髪の毛をたらし、仏道似寄った格好をした刀剣男士は初めて見るであろう機械に触れて笑った。 「ようやく、参りました」  本当だよ天下五剣め。  不動行光はその時とても集中していると思った。そう思っていたのに。かたん、と懐に入れた銃が鳴る。刀装でないそれが発砲されたと気づいた時には苦無は倒れていた。確かにそれは発砲されて、現に敵は倒れた。でも、不動の服に穴は何一つなかった。 「ぁ、れ?」 「ふどう! なにをぼっとしているんですか!!?」  今剣が不動に襲いかかる脇差を斬り殺す。室内戦の彼は本領発揮するかのように華々しい。敵の刀をするりと避けたかと思えば壁を足場に跳躍して一撃で敵を仕留めるのだ。まだ不慣れなナイフスを守りながら薬研が刀を振るう。五虎退の方も逃げ出そうとする敵を屠ったようだ。襖のもとにでんと立ってまるで門番だった。  やっぱり極ってすげえんだな。  そう思ったら何故か極になることが怖くなった。強くなりたいと思うことと、実際に強くなることは別だ。不動は修行のためどこに行くのか怖かった。織田信長のもとにいって、また自分の不甲斐なさを見させられるのかと疑心暗鬼になっていたのだろう。  キンッと乾いた音がした。何かを考えたくなくて刀を振るった。ただの八つ当たりの刀に誰かの刀がぶつかった。 「私は、数珠丸恒次と申します」  天下五剣が一振り、数珠丸恒次は顕現して早々に仲間の一太刀を受けるという不思議な目にあった。遭わせた刀だってビックリしていた。 「あんた、」 「準備は終えていないようですが、呼ばれてしまいましたから」  数珠丸はそう微笑んで隊長の包丁藤四郎がつけていたウェアラブルカメラにそっと触れた。 「ようやく参りました」  恋人にあてたような言葉だった、とのちに薬研が語る。不動もそれは否定できなかった。  数珠丸も来たことだし、と夜半に集まったのは天下五剣の3振りだった。ちょこん、と内番姿で縁側に座る数珠丸はまるで大きくなったばかりの赤ん坊だった。 「自己紹介は、いらんかな」 「……そうだな」 「知識として入れられましたからね…」  数珠丸もあの洗礼を受けたのだな、とふた振りは納得して酒をあおった。あまり上等とは言えない酒なのだが、二日酔いしなくて楽なのだ。数珠丸は下戸らしく酒ではなくただの水を飲んでいた。  沈黙が流れる。数珠丸はまだ来たばかりなので話すこともないだろうが、この中では古参の三日月が何も言わないのは不思議だった。大典太はぎくしゃくとした気持ちのまま口を開く。からからに渇いた口は酒を飲んでもすぐにダメになった。 「……。大包平が、お前のところに行ったと聞いた」 「はい」 「準備とは、なんだったんだ……?」 「……」  数珠丸はにっこりと笑い「信仰のそれですよ」と仏教徒らしい言葉をいう。三日月の眉がひそめられたのが分かった。大典太は冷や汗をかきながら「そうか」と相槌を打つ。前にもこんな三日月を見たことがあるのだ。そう、挨拶といって大典太の部屋に来た時のような。 「#名前2#は渡せぬぞ、数珠丸殿」 「それは、私ばかりの言葉ではありませんな」  先程まで渇いていた口から生唾がどっと溢れた。不動行光に呼び出されたといった数珠丸恒次は、彼のその銃にやられたのか何なのか一癖ありそうな刀だった。