旅がしたい

 新しい刀剣男士も増えてきたけれど相変わらず数珠丸恒次と亀甲貞宗が来る気配はない。それはそれで割り切っているので構わないのだが、この新しい刀剣男士の中の1振りである大包平は数珠丸恒次がいないことに大層お冠だった。 「おい! #名前1#!」 まず俺のことを呼び捨てにする。まあ、最近はそれでもいいかと思い始めてきている。(ほかの刀剣も真似ているがまあ……今は許容できるほどに近しい関係だ。) 「数珠丸恒次はまだなのか!?」 「まだだ」 「なんでだ!!」 「本霊に聞け」 「聞いてきたぞ!!」 「へえ、」 「そしたら 『あの方はまだ私のことを迎え入れる準備が整っていないようなので』 と言われたからな!! 準備ってなんだよ!」 ツッコミばかりしてしまうこの男が件の大包平だ。鶯丸はよくコイツの話をしていたが、天下五剣に選ばれなかったことに対して色々考えすぎだろうコイツは。 「ん? おい、なんだその視線は」 「お前こそ敬語はどこに行った」 「お前などと呼ぶな! 俺は大包平! 池田光政に見出された刀だぞ!」 「はいはい」 うるせえ刀、それが大包平の印象だ。  内番の手合わせに大包平はよく入りたがる。カンストしてる奴らが多いので入れるのは構わないのだが、どうも願う相手が悪い。三日月に大典太に小烏丸とまあうちの本丸ではレベリングをしている最中のやつらとやりたがるのだ。(三日月はまあカンストしているがどうも手加減なしだ。)どうせならカンストしてる奴らの方がまだいい。戦場にはあまり出していないので手加減とかもきちんと分かっている。だけど、レベリングしている時はかなり荒々しくなる。昂ったままだし。説明しても大包平は聞かん坊だ。今日もまたぶっ倒れた。背中に乗せて部屋まで運ぶのは俺の役目だ。刀剣男士にトレーニングを言い聞かせている以上、マネージャーみたいな仕事は俺の役回り。まあ、世祖がやってくれる時の方が多いが今日は世祖は畑当番にいる。 「鶯丸ー」 「ああ、すまないな、大包平が」 部屋の中では鶯丸が本を読んでいた。最近は経済学に興味があるらしいが俺にはサッパリ分からない。この鶯丸がなんで大包平と連むのか俺には分からない。大包平はほかの刀剣男士と仲良くなれない訳じゃないだろうになあ。天下五剣の話や池田光政の話ばかりしてるからか? あんまり鶯丸以外と話せているのを見ていない。 「そう怒らないでやってくれ、#名前1#」 お前も呼び捨て側になったのか、とは言えずに口を引き結んで「ん」と頷いた。 横たえた大包平を挟んだ向こう側にいる鶯丸は距離は遠いのになぜか近く感じる。不思議な感じだった。 「大包平はな、認められようと必死なのだ」 「……それは、何となくだけど分かるよ。こいつ頑張ってるもんな」 新刃時代のトレーニングというとバテって倒れることが多いのだが大包平はよく食らいついていた。(ちなみに千子村正は期待通り倒れていた。)頑張ってるんだから後はもう少し歩み寄りというかほかの刀剣男士たちと話せるようになれればいいんだが。 「なんだ分かっていたのか。なら、そろそろ大包平を撫でてくれないか」 「はあ?」 一気に話が変わった気がするんだが、鶯丸は大包平の顔の汗を拭きながら話を続けた。 「大包平がやってきた時に、#名前1#は第一部隊を撫でていただろう」 「まあ、相当な無理強いてたからな」 10万の御年魂を集めなさいと言われた時はビビったしやれるのか心配だったが極になった短刀と槍たちはやれる、と言ってくれた。極は五虎退と、小夜と秋田と、つい最近薬研が修行から帰ってきたので4振り。槍と大太刀を1振りずつ入れた。極以外は臨機応変に変えていたが、その4振りにはずっと頼りっきりだったのだ。大包平を連れてきた時には感動して昔みたいな雑魚寝をした。と、大包平はそれを見ていたのは知っているが……。 「羨ましかったのか?」 「言ったろう、大包平は天下五剣の称号を気にしすぎるのだ。認められたいのだよ、本丸の刀剣たちに自分はすごいやつだと」 「それが、コレなのか?」 恐る恐る聞いた俺に鶯丸は笑って頷いた。刀とはそういう物らしい。主に使われ、主に認められ初めて仲間にその存在を認められる。 「だけどうちの主は世祖だろ、なんで俺をターゲットにすんだ」 「この本丸の主は世祖だが、本丸を仕切っているのは#名前1#だろう? それに、陸奥守を佩刀しているからな。躍起になっているんだろう」 かたん、と陸奥の鍔口が鳴いた。出てきたいのか?と語りかけると無音だ。よく分からないまま鶯丸の方に向き直ったらザワッと異様な雰囲気になっていた。 「ど、どうしたんだよ鶯丸」 「いや、何。久々に刀としての本能を思い出しただけだ」 「本能ねえ」 人の姿のまま刀とか意味わからんと思うのだが、こいつらにとってはそれが当たり前だ。 「大包平、起きたら今日のトレーニングはなしって言ってくれ。あ、あとお前のことはちゃんと認めてるって適当に言ってくれ」 ほんじゃ、俺は仕事戻るからな。そう言い残して#名前1#は出ていった。 「大包平」 「……………なんだ」 「そういうことらしいぞ」 「…………ああ」 「不満か、あれでは」  目を閉じたまま、大包平はごろんと鶯丸とは反対の#名前1#が座っていた方向に顔を寄せた。まるで叱られたあとの子どものようだなと鶯丸が呟く。 「世祖は」 「#名前1#に一番近い存在だな」 「刀としては陸奥守吉行、か」 「だろうな」 ふー、と大包平は息をついた。どんなに頑張っても認められたと実感出来ないのだ。他の刀剣たちが割り切っていることを大包平はどうにも咀嚼出来なかった。思春期の少年のようだが、大包平は刀として当たり前の感情だと思っている。 「鶯丸、お前はそれでいいのか」 「良くはないさ」 「なら、なんでここで本を読む。なぜ戦場に行かない。なぜ手柄を立てない」 「立てたところで俺はもう褒められん」 「……………」 「#名前1#は戦績を考えるよりも育てることに重きを置いているからな。育て終わった刀剣は彼の構想に入っていない」 「だから牙を研ぐのは止めたと。そういう話か」 パタン。本が閉じた音がやけに耳の奥まで響いてきた。大きい音でもないが、響いてきたのだ。 「そう思うか」 「ああ」 「残念だがそれはハズレだ、大包平。俺、いや俺達はそんな軟弱な思いで#名前1#と世祖の刀をやっていない」 ぞわりと口が硬くなる。いやな兆候だ。鶯丸が今回は本気で刀の話をしている。のらりくらりと躱してきた話題について触れている。 後ろを振り向きたくない。震えそうな腕を握ったまま横になっていたら鶯丸はすぐにいつもの雰囲気に変わった。 「頑張れよ、大包平」 頑張るって、何を頑張らせるつもりなんだお前は。  大包平は弱くないし、能力も高い。ほかの刀剣男士たちも分かってるだろう。というか、そんなこと言ってたら大典太たちも色々あるはず……いや、まああったか色々と。うん、あったな。 「あったねえ、色々と」 「そう考えるとお前らはあんまり問題起こさなかったな、大太刀兄弟」 「アタシはほら、兄貴が手綱握ってるからね」 次郎太刀はそう言いながら柘榴酢と酒を混ぜたものをこくりと飲む。酸っぱさもあるが、これを飲むと二日酔いにはなりにくいのだ。次郎太刀はそれで、と#名前1#のことを見つめる。 「久々にアタシたちに話がある、なんて部屋に来て。どんな心づもりだい?」 「なあ、お前達も褒められたいとか思うのか?」 #名前1#はド直球で聞いてみた。鶯丸たちの会話を聞いてしまったこんのすけがそれらを教えてくれたからだ。鶯丸の本音を聞いて、#名前1#はああーとちょっとだけ後悔した。 一番最初に打刀でカンストしたのは長谷部だったが、太刀では光忠に続いて鶯丸が2番手だったのだ。(江雪が来た順番は早いのにカンストが遅かったのは彼が戦に出来る限り出ないように画策したからである。)鶯丸はそこから動かなくなっていた。そう、動かなくなっていたのだ。 「鶯丸の話を聞いちまってな。同じ頃カンストしたのって大太刀兄弟だし」 「ふーん、それでか」 「ああ」 次郎太刀は#名前1#のことを睨めつけた。ここでもう少し気の利いた言葉を聞かされると思ったらただの肯定だけとは! #名前1#は変なところで鈍い人だ。次郎太刀の言葉には二つの意味を重ねていた。 納得した「それでか」とようやく自分たちを見てくれた#名前1#への皮肉をこめた「それでか」である。#名前1#の表情から察するに前者しか汲み取っていない。チェッと口をとんがらせると#名前1#がまた口を開いた。 「お前達は本当に手がかからない刀だったからな。俺も世祖みたいに効率よく頭を働かせれば良かったんだが、なんだかんだで後にしていたらこんな時期になった」 「………」 「誉めっちゃとってたもんなあ。ゆっくりしたら、それはそれで暇だろ?」 「……まあね」 「褒めて欲しいか?」 「そりゃあね」 今度は即答だった。誉を幾度も連続してとったところで、一つ一つ褒めて欲しいのは当たり前だ。刀とはそういうものだ。少なくとも、太郎太刀と次郎太刀の間では。 「そっか、なら褒めてやろう」 #名前1#はすっと次郎太刀のもとへ近寄ると次郎太刀のことを抱きしめた。 「なっ、ん、え、はぁ!?」 「んー、褒めるつったって遅くなったからな。物買おうかと思ったけど、それよりもまず全身で褒めようかと」 驚いたままの次郎太刀をよそに#名前1#は「よく頑張ったな」「世祖のためにありがとな」「刀になっても酒の飲みすぎには気をつけろよ」とまるで今生の別れのような言葉を吐く。 「やめてよ、そんなの」 「んあ?」 「……そんな、お別れみたいな」 「……………それっぽかったか?」 「ああ。そんな褒め方ならいらないよ、皆アンタが必要なんだから」 「……そっか」 #名前1#は密着させていた体を離した。先程までの暖かさが急に消えると体が途端に冷えた気がする。やだなあ、と思いながらも次郎太刀は前を向き直すと#名前1#が自分のことを見つめていた。 「な、なんだい?」 「うんー、褒美を考えてる。カンストした奴ら、ていうか初期にカンストしちまった奴らを甘やかす方法」 「……」 甘やかす、って。そりゃあ甘やかしてほしいが、面と向かって言われると恥ずかしさがこみ上げる。真っ赤に火照る顔を酒の入れたコップで冷やすと#名前1#が閃いたような顔になった。 「うん、よし」 「何を思いついたんだい?」 「次郎太刀、お前俺のいた時代に興味あるか?」 「#名前1#さんがいた、時代……?」 かたり、と陸奥守が鳴いた。  #名前1#がいた2015年に羅針盤で行ってみよう、という計画は瞬く間に刀剣男士の中に広がりカンストを目指すモチベーションにもなるようだった。しかし問題は極の短刀たちである。カンストしていたから極になったが、まだレベルは40そこら。カンストには程遠い。 「まあ、極は……公平さを考えて順番は最後かなあ」 「ぅうー」 世祖も頷いてしまえば極たちは何も言えない。その代わり、ではないがこの申し出に辞退する刀もいた。戦うことの方が好きなものたちはイベント特製ステージに連れていくように言うし、行くのは怖いという者には万屋で遊ばせることにした。ということで、栄えあるくじ引きに初めに当たったのは博多藤四郎だった。彼は運を持っている刀である。  行くのにそんなに時間はかからない。お金の方は日本円ではなくドル札がある。日本円は既に人が変わってしまったので変わっていないドル札を使うことになった。着いた途端にまずは銀行に行くというのは情けない姿だが、まあ旅行の醍醐味だ。さて、これからどこに出かけようか。