彼女の本丸運営がまとまるまで
「そんじゃ、青江。お前の昔話でも聞こうか」 ご飯を食べ終わって、審神者専用の執務室で青江を前に#名前2#は正座をして座っていた。左横に世祖が昼よりも少し幼い感じ(気のせいかもしれない)で座っており、右横にはこんのすけが控えていた。 「……なにをする、つもりだい?」 「お前はリラックスしててくれればいい。少し、触るけど…いいか?」 「…ああ」 「ありがとう。世祖」 呼ばれた世祖はのそのそと青江に近寄り、こめかみに指を押し当て「~~~」とよく分からない言葉を言う。瞬間的にピリッと痛みが感じたと思ったら、世祖は青江から離れて#名前2#の膝に頭をのせた。そして一言。「#名前2#。しー」 青江はん?と疑問符を頭の上に浮かべたが、#名前2#は焦ったように「まじか! それぐらいは一人で行けるようになってくれ、アホ!」と叫んで世祖をかつぎ、ついでにこんのすけもかつぎ 「トイレは、どっちだ!?」 「あっちあっち!」とあわただしく部屋を出ていった。 「あ、あれ?」 「おお、青江ぇ。置いてけぼりかのぅ」 ぽん、と出てきた男。昔に1度だけ出会った男に、青江は顔をしかめて「なんだい、君。飼い慣らされでもしたのかい」という 「ぶふぅーっ! そりゃ、ないのう。あいつは、面白いから一緒にいることを選んだだけじゃけぇ。龍馬ンときも同じことやき」 「君はどこかの白い鳥と同じく、渇望しているねえ」 「人の身になってもーたからの。欲望だらけじゃ」 「ふぅん、」 納得出来ない、という顔を見せたが青江は内心首を頷かせていた。人間とはとても分かりやすい。その愚かさが愛しいというべきか、本当に愚かだと笑うべきか。 「でも、あの子達は規格外だろう」 「じゃな! こんのすけによくよく調べてもらったんじゃがな、どんやら脳がの。ちっくりいじくっとるよーじゃ」 「脳?脳みそかい?」 「#名前2#と世祖は脳みそを使っちゅう割合が人よりも多いにかぁーらん #名前2#は4割、せいそは6割じゃ」 「………それは、もう」 「人とは呼べない、沖野もこんのすけもすべて知っちゅうろう」 「知ってて、ここの主にしたと?」 「みたいじゃの。わしは、#名前2#が暴走しないように呼ばれただけじゃ」 「それにしては、やけに仲がいいみたいだね」 「#名前2#がのー、これがまた!面白いやつじゃけん!つい、の」 昔を懐かしむように目を伏せる陸奥に、青江はべっと舌をだして「唾棄すべき感情だね」とやけににやついた笑みでそう言った。沖野という単語が何を指しているかはわからなかったが、どうやら役人か同僚審神者のことだとは見当がつく。目の前の男は、気味の悪い現状に浸って「いい湯だ」などと言っているのだ。 「ああ?」 「そんな感情、捨てるべきだ。昔を懐かしむ? 今の主の刀として、1番やってはいけないことじゃないのかい。僕は、先ほど呪いをかけて思ったよ。 彼らは恐ろしいくらいに刀を信用している。そして、刀剣男子を信頼していない。なぜか、いまようやくわかった。ここの本丸はおかしい。主を1番にも据えられないそんな刀を! 彼らが信じることなんてできないもんねぇ!!」 あおるように言った青江を陸奥は唇をきつくきつくかみしめ、だんっと腰を下ろした。刀を腰からはずし、前に音をたてておくと青江をようやく見つめ「この刀を、おんしはなんと見る。わしはこの刀の研がれた分こそが誇りじゃ」と言った。 「わしの時代は、もう刀は時代遅れじゃった。ほきも、今、こうして刀として生きられることに感謝しちゅう。やき、ついていく。それのどこがおかしい」 青江はけらけらと笑って「それは君の誇りなんかじゃない。子供が初めての悦びを覚えたようなものだ。そんなもので、刀剣の矜持を語らないでくれ」 青江と、陸奥は睨み合ってフンッと息をついた。これ以上言い争っても仕方ない。生きた時代が違うのだ。価値観、主への誠実さ、いろんなことが変わっていくのは世の中の性だ。主がきちんとかかっていない本丸では、物事へのものさしが定まっていない。青江も陸奥もそれをわかって、この言い争いを止めたのである。 「ふぃー、たでぇーまー。って、陸奥。お前、なんで出てきてんだ」 ずかずかと、部屋に入ってきたこの本丸の主とその守護を名乗る男。なんともまぬけな顔をしてキョロキョロと部屋を見回した。さっきの陸奥の話が本当であるなら先ほどまでの話を知っていてもおかしくないのだが、まったく知りませんという装いである。それがなんだか妙に違和感をおぼえる。 「まあ、いいや。陸奥、お前は後ろに控えてろ。さあ、青江。話の続きをーー」 「……主守護。僕は今気分が悪い」 「そうか。残念だが大事な話をするからもう少し待ってくれ。言いたいことは1つだ。この本丸はいまとろけた肉じゃがみたいにかきまぜられていて正直やばい。 だから、陸奥と青江の2人で俺のことを守れ。いいな。 ああ、付け加えると俺のことは#名前2#って呼んでくれ。他の刀剣男士どもはさんつけで呼ぶそうだがな」 青江は今まで見せたことないようなしかめっ面をさらし、「いやだ」と言った。案の定殴られることは彼もわかってはいたが、言わざるを得なかった。 殴られた頭がぐわんぐわんとうなる中で「とりあえず、明日の朝作戦会議するからな」という言葉だけはいやにきれいに聞こえた。 「作戦会議って、なにするんだい?」 「遠征ー」 「…はあ?」 「あれ? 聞き取れなかったか? 遠方を征するとかいて遠征だ。沖野さんに確認したところ陸奥にもレベリングが必要って言われたからな。 陸奥のレベルアップしたかったんだが、どうも数が足りてなくってなー。大丈夫、監視役として長谷もついていってくれるっていうし行ってこい」 へらへらと笑う目の前の男の顔を踏み潰してやりたいが、さすがにそんなことをしたら自分はどうなるかわからない。やけに機嫌が悪くいらっしゃる主に「彼女、どうしたんだい?」と聞いてみた。 「んとな、髪の毛がうまく結べなくってよ…」 主は肩にまでかかる髪の毛をむちゃむちゃと揺らして「うぅ! せいそ、きる! きる!」と連呼していた。邪魔って言いたいらしい。 「なんだ、そんなことか。結紐はあるのかい?」 「ああ、今は紐じゃなくてゴムなんだって言っても知らないか。リボンー…あー、幅広のちっちゃい帯? みたいなやつならある」 「それでもいいよ、貸して」 お菓子箱についていたリボンなるものを受け取って髪の毛を一つ結びした。 「これでどうだい?」 「!!」 主は太陽みたいなきらきらした顔で「いい? いい?」とくるくる回って見せた。あんまりはしゃぐと下着見えるよ? 大丈夫かい? 「おー、可愛い。可愛い」 こうやって見ると普通の兄妹みたいだが…違うんだから困った人たちだと思う。きっと最後は納まりがよくなくなるのだ。 遠征を見送ってゴローンと畳の上に寝っころがった。青江騒動でブラック本丸摘発が行われたのだ。 まあ、世祖は毎度のことなのだが今回は俺もついていたので手続きがとっても増えたのだ。 大量の書類にハンコを押しまくってこんのすけに送信してもらう。なんで紙なんだろう。普通にデータにしてくれればいいのに。と思ったが個人情報などめっちゃ書いてあるので人やこんのすけが運ばないと誰かに盗まれるのだと今更気づく。 「世祖、政府ってよく考えてあんだな」 「にゅ? s-ふ?」 世祖はよくわからんといった風でもぞもぞと俺の腕の間に顔をいれてきた。しかも政府という言葉が何を意味するかもわかってないらしかった。沖野は今まで何してたんだ。 「おい、リボンとれるぞ」 片腕はあげて片腕は世祖の枕になった。わりと筋肉質の腕なもんで枕にするには固いと思うが世祖は「にゅふふ」と笑ってぺたぺた顔をさわってきた。 「世祖ー! #名前2#さんー! あっそびましょー!」 「おおー」 あの後、秋田は彼が寝ている間に世祖によって喉と頭の調子を治してもらった。精神的なやつが原因の舌っ足らずだったので、1日で完治した。 薬研は礼を言いたそうだったが、口ばってんのマスクをやった。何かが伝わったらしく「ははっ、大将たちには敵わねえなあ」と言った。相変わらずイケメンだなあ。 「ほれ、世祖。起きろ」 「あるー」 秋田は青江がこっちにいるせいか(?)、よく部屋に遊びに来る。 他の短刀もこんな風になってくれればいいんだがなあ。まあ、今はあの眼帯やっこさんをどうにかしないとかなあ。 っしゃ、鍛刀するかあ。 鍛刀部屋に着いてこんのすけにレシピを聞いてみた。 「どんなのがいいかな?」 「世祖さまのフィーリングが一番ですよぅ!」 「すげえ説得力あってビックリ」 世祖が数値を打ち込む横で、こんのすけとタブレット端末の画面とにらめっこをした。にらめっこというのはおかしいかもしれない。こっちから一方的に画面の向こうを凝視していた。 政府が審神者の要望で作った、"戦場と本丸を覗きあえる端末"のお試し版である。部隊長が小型のウェアラブルグラスを身に着けアイアンマンみたいな画面を操作して戦場の様子をこちらに伝えてくれるーみたいなものだ。 臨床実験の実験体として沖野が俺たちを推薦したらしく、昨日のトイレ事件の最中に届けられた。本当に政府はタイミングがよろしくていらっしゃる。 最初から戦場にいくのはまずいと言われていたので、仕方なく遠征からやってみることにした。陸奥には話をつけておいたので、今はちゃんとつけてやっているだろう。 「っしょいっと」意外と重たいこの機械。女性はどうするんだろうか? 軽量化? 「……。なんだ、#名前2#さん」 「長谷、機嫌わるいなー」 「陸奥守に隠し持たせていたお前が悪い! 新手の間者かと思ったぞ!!」 「え、わるいわるい。それで、遠征はどうだ? 10分ほどだが…まあ、確認だ。試運転だし」 「そうだな、言わせてもらうとこっちに出てくる画面もう少しなんとかならんのか?」 「とゆーと?」 「でかい。色が濃い。総じて派手」 「…わかった、言っておこう。音声は?」 「平気だ。一つ言うと立体音声過ぎて気持ち悪い」 「なるほど。はぁーせぇーくぅーん、だーいじょー」 「やめろ、!!」 「ひゃはは。まあ、こんなもんかな。資源も適当に帰ってくるんだぞー。迷子になるなよー」 「わかっている!」 ブッと切られて画面がなんにも見えなくなった。スマートフォンのメモ機能にメリット・デメリットを書き留めてぽっけにしまう。後で書いて出さなくては。 グラスを取り外すとかなり発熱していた。燃費悪すぎかよ。 「#名前2#、手、ぬく」 「おう、あったけえだろ」 「世祖さま! 尻尾に冷却水つけないでください!! #名前2#さまも見てないで!!」 けらけらとこんのすけと世祖のコントを見ながら妖精さんに時間を聞いてみると 「あ? 3時間20分…?」 「ええ!? #名前2#さま、それってすごいレアですよ!!」 「ほ、ぅ…?」 刀にもレアがあるらしい。名物とかそういう感じか? とりあえず手伝い札は持ってないので時間を待つことにした。